大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)256号 判決

上告人

野呂元生

代理人

森健

石川康之

亡長谷川多平訴訟承継人

被上告人

長谷川はるえ

ほか二名

代理人

吉住慶之助

復代理人

吉住信百

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人森健、同石川康之の上告理由第一点について。

上告人が原審において本件貸金債務が昭和二〇年六月二八日弁済された旨主張したことは、記録上明らかであり、原審がこの点について何らの判断をも示していないことは、所論のとおりである。

ところで、債務者がその負担した給付に代えて不動産所有権の譲渡をもつて代物弁済する場合の債務消滅の効力は、原則として単に所有権移転の意思表示をなすのみでは足らず、所有権移転登記の完了によつて生ずることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三七年(オ)第一〇五一号同三九年一一月二六日第一小法廷判決民集一八巻九号一九八四頁、同昭和三九年(オ)第六六五号同四〇年四月三〇日第二小法廷判決民集一九巻三号七六八頁参照)。したがつて、右既存債務の弁済が、代物弁済による所有権移転の意思表示の後にされても、その所有権移転登記手続の完了前にされたときは、右意思表示は右弁済による既存債務の消滅によつて、その効力を失うものと解するのを相当とする。原判決は、上告人の代理人野呂は志えが昭和一九年一二月一〇日頃被上告人らの先代長谷川多平に対し本件貸金債務の代物弁済として本件山林の所有権を移転する旨の意思表示をしたが、その所有権移転登記手続が完了したのは昭和二一年三月一二日であつた旨を認定したのであるから、前示判断の遺脱は、原判決の結論に影響をおよぼすこと明らかであるといわなければならない。論旨は理由があり、その余の論旨について判断をなすまでもなく、原判決は破棄を免れず、更にこの点について審理させる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例